阿佐ヶ谷の街を歩くと、ふとした路地や雑居ビルの階段から立ち上る芳醇なスパイスの香りに包まれます。かつて中央線のカレーといえば荻窪の老舗欧風カレーや高円寺のエスニックが代名詞でしたが、現在その勢力図は大きく塗り替えられました。杉並区のスパイスカレー激戦区において、いま最も実験的で熱い皿を提供しているのが阿佐ヶ谷です。
その背景には、阿佐ヶ谷という街が持つ「個人店を育てる包容力」があります。画一的なチェーン店を好まず、作り手の顔とこだわりが見える店を愛する住民気質が、若手シェフの独創的な挑戦を後押ししてきました。スパイスの調合比率、出汁(ダシ)との掛け合わせ、地元野菜の活用など、一皿ごとの作家性が極めて高い点こそが、阿佐ヶ谷のスパイスカレーが一番人気を集める最大の理由です。
さらに、音楽や演劇、古本といったサブカルチャーに親しむ層のライフスタイルと、五感を刺激するスパイス料理の親和性の高さも見逃せません。単なる空腹を満たす食事を超え、「カルチャーとしての食体験」を求める人々が連日この街へと足を運んでいます。