全身麻酔による抜歯をためらう最大の要因は、「未知の麻酔体験に対する漠然とした恐怖」です。しかし、実際に手術室へ入った患者たちの証言を検証すると、局所麻酔とは全く異なる世界が浮かび上がってきます。多くの総合病院や大学病院の口腔外科親知らず抜歯では、麻酔科医の厳格な管理のもとで安全が徹底されています。
「手術台に横たわり、心電図や血圧計を装着された後、『少しぼーっとする薬が入りますよ』と麻酔科医に声をかけられました。酸素マスクをあてられ、深呼吸を2回した記憶を最後に意識が完全に途絶えました。次に気がついた時は、すでに病室のベッドの上で、看護師さんに名前を呼ばれていました」(当時28歳・会社員の手記より)
自著や体験談ブログ、SNSの投稿を分析しても、手術中の恐怖を訴える声は皆無に等しいのが実態です。局所麻酔の抜歯で多くの人を苦しめる「メリメリという骨の軋む音」「焦げたような切削の匂い」「顎を上から力任せに押さえつけられる圧迫感」を、感覚遮断によって完全に回避できる点が、全身麻酔を選ぶ最大の心理的メリットと言えます。
ただし、術直後の覚醒時には特有の不快感が伴います。気管挿管チューブによる喉のイガイガ感や痰の絡み、麻酔ガスの残留による一時的な吐き気、そして下顎の奥がじんじんと熱を帯びていく鈍痛です。これらは生体反応として避けられませんが、点滴ラインから強力な鎮痛剤や制吐剤を即座に追加投与できるのは、入院管理ならではの強みです。