憲法19条の判例動向を理解する上で、決して外すことができない2大リーディングケースが「謝罪広告事件」と「君が代起立斉唱訴訟」です。
昭和31年に判決が下された謝罪広告事件(最大判昭31・7・4)では、名誉毀損に対する民法723条の「名誉ヲ回復スルニ適当ナル処分」として、新聞等への謝罪広告掲載を命じる判決が思想・良心の自由を侵害しないかが争われました。最高裁は、単に事態の真相を告白し謝罪の意を表明する程度のものであれば、それは「単なる事態の真相の公表と謝罪の意思表示」にすぎず、個人の道徳的判断や倫理的信念を強制するものではないため、19条に違反しないと結論づけました。
一方、2000年代以降に大きな社会的議論を巻き起こしたのが君が代起立斉唱訴訟(最判平19・2・27等)です。卒業式などの式典において、校長からの職務命令により国歌斉唱時に起立・斉唱を命じられた公立学校の教職員が、自身の歴史観や世界観に基づき起立を拒否し、懲戒処分を受けた事案です。
最高裁は、国歌斉唱時の起立を求める職務命令は、教員に対して特定の思想を持つことを強制するものではなく、式典を円滑に進行させるための「儀礼的所作」を求めるものであると位置づけました。その上で、起立行為が個人の思想・良心と相容れない場合であっても、受ける制約は「間接的な制約」にとどまると判示。学校教育の目的や式典の規律を保つ必要性と比較衡量した結果、職務命令は合憲であるとの判断を示しました。ただし、その後の判例(最判平24・1・16)では、戒告を超える重い処分(停職や減給など)については裁量権の逸脱・乱用として違法とする判断も示されており、制約の程度に応じた繊細な歯止めがかけられています。