1993年、小学館から世に送り出された写真集『私の愛情物語』は、出版史を塗り替える歴史的事件となった。メガホンを取るようにカメラを構えたのは、時代の寵児たる写真家・篠山紀信。彼がファインダー越しに捉えたのは、単なる露出ではなく、成熟した女性の息遣いそのものだった。
発売と同時に書店には長蛇の列ができた。世間の視線は好奇から畏敬へと変わる。爛漫な笑顔、豊潤な肢体、そして陰影に富んだモノクロームの構図。それは消費されるヌードではなく、光と影を極限まで計算し尽くした「アート写真集」としての絶対的な品格を備えていた。
篠山紀信のレンズは、彼女の内奥にある狂気と純真を同時に引きずり出した。ページをめくる者に息を呑ませるその世界観は、商業写真の限界を軽々と突破し、日本のアートシーンに決定打を打ち込んだのである。