本作における最大の感情的クライマックスといえば、糸守町の御神体がある山頂の火口縁で訪れる「かたわれ時」のシーンです。昼でも夜でもない黄昏時、世界の輪郭が曖昧になる一瞬にだけ、3年の時空を超えて立花瀧と宮水三葉の姿が交差します。
新海誠監督が仕掛けた演出の凄みは、単なるファンタジーの奇跡にとどまらず、徹底した「光と影のグラデーション」にあります。マジックアワーの光芒が二人の輪郭を縁取る描写は、それまでお互いの身体を借りる形でしか触れ合えなかった二人が、初めて「実体」として手を取り合う尊さを際立たせました。手のひらに刻まれた「すきだ」という告白のセリフは、名前を忘れていく残酷な忘却への抵抗であり、全世代の観客が涙した名場面です。
一方で、美しい色彩と圧倒的な恐怖が同居するティアマト彗星の落下シーンも外せません。1200年周期で地球に接近した彗星が夜空を裂いて分裂し、糸守町へと降り注ぐパノラマは、息を呑むほど壮麗でありながら破滅の冷徹さを突きつけます。息を呑む美しさがそのまま破滅の象徴となる強烈なコントラストが、観客に強烈なカタルシスを刻み込みました。