楽曲の核心に迫る上で最初に着目すべきは、タイトルそのものが内包する残酷な心理的パラドックスです。一般的な失恋ソングの多くは「早く忘れて楽になりたい」という苦痛からの解放を願うか、あるいは「一生あなたのことを愛し続ける」という永遠の誓いをモチーフにします。しかし、清水依与吏が紡ぎ出した『思い出せなくなるその日まで』の歌詞解釈において決定的なのは、「いつか相手の記憶が消えてしまうことへの底知れぬ恐怖」です。
人間は激しい痛みを伴う喪失を経験した際、防衛機制として時間をかけて記憶を薄れさせようとします。ところが、主人公はその忘却のメカニズムを自覚しながらも、それに激しく抗おうとします。歌詞中に散りばめられたフレーズの数々は、別れた直後の混乱から、日常の些細な瞬間に相手の不在を突きつけられる絶望を克明に捉えています。「世界で一番大切な人」を失ったとき、世界は色を失い、昨日まで当たり前だった景色が刃物のように心へ突き刺さる。清水依与吏は当時の音楽雑誌の取材において、「自分の中からあの人の声や仕草が消えてしまうくらいなら、この痛みを抱えたまま苦しんでいたほうがいいと本気で思っていた」と赤裸々に語っています。
この清水依与吏の歌詞の実話性こそが、楽曲に不朽の生命力を与えている最大の原動力です。back numberというバンド名自体が「型落ち」「振られた元カノにとって自分はすでに過去の男(バックナンバー)」という自嘲的な由来を持つことは有名ですが、この楽曲にはまさにバンド結成の契機となった個人的な失恋の痛恨が色濃く投影されています。別れの真相とは、ドラマのような劇的な事件ではなく、お互いの価値観のずれやすれ違いによって、ある日突然訪れた静かな日常の崩壊でした。だからこそ、聴く者自身の過去の傷口と共鳴し、逃げ場のない切なさを生み出すのです。