水族館の標本や深海図鑑に登場する、大きく口を開けて頭部を光らせているチョウチンアンコウは、例外なくすべて「メス」です。深海生物のなかでも、チョウチンアンコウ類(特にミツクリエナガチョウチンアンコウ科など)に見られる雌雄の体格格差は、地球上の脊椎動物で最も極端な事例として知られています。
オスはメスに比べて極端に小さい「矮雄(わいゆう)」と呼ばれる形態をとります。種によってはメスの体長が40〜60センチメートルに達するのに対し、成熟したオスの体長はわずか1〜3センチメートル程度。体重比にして数千倍から数万倍の開きが存在します。人間で例えるなら、体重60キログラムの成人女性の足元に、体重数グラムのハムスターほどの男性が噛みついているような隔絶したスケール感です。
オスにはトレードマークである頭部の「ちょうちん(誘引突起・発光器)」がありません。彼らにとって重要なのは獲物を誘い込むことではなく、自らを養ってくれる母艦たるメスを一刻も早く見つけ出すことだけです。生存競争に特化した無駄のない体躯こそが、この極端な矮雄化をもたらしました。