2016年に公開され、当時のシリーズ興行収入記録を鮮やかに塗り替えた『名探偵コナン 純黒の悪夢』。物語の鍵を握る重要人物キュラソーの配役決定までには、制作陣の並々ならぬ葛藤と試行錯誤が存在した。黒ずくめの組織の幹部でありながら記憶を失い、少年探偵団の子供たちと触れ合う中で自らのアイデンティティを再構築していく——あまりにも複雑な内面を持つこのキャラクターには、単にセリフをなぞるだけではない「圧倒的な存在感」と「静かな気品」が必要不可欠だったのだ。
アフレコ現場でのエピソードは、今やアニメ界の語り草だ。当初、本業の声優ではない女優のゲスト起用に対して、一部では慎重な見方も存在していた。しかし、マイクの前に立った天海祐希が第一声を放った瞬間、スタジオの空気は凍りつくような緊張感とともに一変する。冷徹な暗殺者としての刃のような声色と、記憶を失った一人の女性が見せる無垢で脆いニュアンス。その相反する二面性を自由自在に行き来する圧巻の演技に、現場のスタッフ全員が思わず引き込まれ、静まり返ったという。