「無意識」の存在を体系化したパイオニアといえば、19世紀末の精神分析学者ジークムント・フロイトです。無意識とフロイトの心理学において提唱されたのは、人間が道徳や社会性から受け入れられない本能的衝動(エス)を無意識下に「抑圧」しているという構図でした。満たされない欲望やトラウマが夢や失言、神経症の症状として噴出すると説いたのです。
フロイトの弟子でありながら独自路線を歩んだカール・グスタフ・ユングは、個人の経験を超えた領域へと踏み込みました。それがユングの集合的無意識です。個人の生涯で獲得された記憶の下層には、人類の歴史を通じて共有されてきた神話的パターンや象徴体系(元型=アーキタイプ)が存在していると指摘しました。現代でも異文化間で共通する恐怖感や善悪のイメージは、この集合的無意識の現れとして説明されます。
こうした古典心理学の洞察を、現代の認知神経科学は見事な形で裏付けています。脳科学から見た無意識の仕組みの中心にあるのは、脳幹に位置する「網様体賦活系(RAS)」と、習慣行動を統括する「大脳基底核」です。
網様体賦活系(RAS)は、五感から毎秒送られてくる数百万ビットの感覚情報から、現在の関心事や生命維持に必要なものだけを厳選する「フィルター」として機能しています。街中で自分の名前を呼ばれた瞬間に気づく「カクテルパーティー効果」や、特定の車種を買おうと決めた途端に街中でその車ばかりが目につく現象は、まさに潜在意識の検索フィルターが書き換わった証拠です。無意識の力とは魔法ではなく、脳の注意資源の配分機能そのものです。