数あるアンパンマン劇場版の中で、なぜ本作『勇気の花が開くとき』が今なお「大人も泣ける歴代最高傑作」として不動の評価を得ているのか。その最大の要因は、「弱さを抱えたヒーローが、それでも他者のために命を懸ける姿」を真正面から描写した点にあります。
普段のアンパンマンは、顔さえ新しくなれば「元気百倍」で無敵の強さを発揮します。しかし本作では、ジャムおじさんが顔を焼く際に不可欠な「勇気の花のジュース」をばいきんまんにすべて破棄され、普通のパン生地だけで作られた「力のない顔」で最終決戦へと向かう展開が訪れます。スーパーパワーを完全に喪失し、殴られれば傷つき、火に炙られれば焦げてしまう生身の存在になったアンパンマン。それでも誰かを守るために前へ進む姿こそが、観客の胸を激しく揺さぶるのです。
このプロットは、原作者のやなせたかし氏自身の戦争体験から生まれた「本当の正義とは、自分が傷つくことなしには行えない」という信念の完全なる結晶です。単なる勧善懲悪を超えた人生の哲学が根底に流れているからこそ、親世代となった大人が観て思わず涙を流す作品となっています。