一般のファンにとって疑問に思われがちなのが、「海老蔵」と「團十郎」という二つの名跡の違いです。成田屋の家系図において、どちらも極めて重要な名跡ですが、その担う役割と格式には明確な差が存在します。
「市川海老蔵」は市川宗家の若きリーダーや後継者が名乗る看板名跡であり、若々しい華やかさ、破天荒なエネルギー、革新的な挑戦を象徴するポジションです。一方で「市川團十郎」は、歌舞伎界全体の頂点に立ち、古典芸能の秩序と精神的支柱を担う宗家の棟梁に他なりません。
市川宗家の十八番である「荒事(あらごと)」の真髄を体現し、観客の邪気を払う睨(にら)みを披露できるのは團十郎の特権です。海老蔵時代に見せたアグレッシブな挑戦者としての姿から、歌舞伎座の屋根を背負う最高責任者への昇格こそが、この名跡交代の本質でした。