吉高由里子の役者人生を語る上で、決して避けて通れない転換点が19歳の秋に遭遇した壊滅的な交通事故です。園子温監督の映画『紀子の食卓』(2006年)でヨコハマ映画祭最優秀新人賞を受賞し、次なるステップとして蜷川幸雄監督の映画『蛇にピアス』(2008年公開)のオーディションに合格した直後のことでした。
友人が運転する車に同乗中、玉突き事故に巻き込まれ、吉高は顎の骨を粉砕骨折する重傷を負いました。そのまま集中治療室(ICU)へ緊急搬送され、5日間にわたり意識不明の重体に陥るという、文字通り生死の境を彷徨う惨事でした。当時の特番インタビューや後の手記において、彼女は当時の心情を赤裸々に告白しています。
「集中治療室の天井を見つめながら、管だらけの自分の姿を見て『人はこんなにもあっけなく死ぬんだ』と痛感した。生きているだけで丸儲けなんだと思ったら、人目を気にしたり、失敗を恐れたりするのが馬鹿らしくなった」
顎を固定され、流動食しか口にできない過酷な入院生活を経て現場に復帰した彼女は、まだ顔に痛々しい痕が残る状態のまま『蛇にピアス』のカメラの前に立ちました。全身タトゥー、舌にピアスを開けるスプリットタン、大胆なヌードシーンという、新人女優にとっては極めて過酷な要求に対し、事故で得た剥き出しの死生観をぶつけるように怪演。この演技が高く評価され、第32回日本アカデミー賞新人俳優賞およびブルーリボン賞新人賞を総なめにし、若手トップ女優への階段を一気に駆け上がりました。