榊(サカキ)と樒(シキミ)の最も根本的な違いは、日本の精神史において担ってきた「宗教的役割」と「民俗学的背景」にあります。外見が似ている常緑樹でありながら、一方は神道、もう一方は仏教において、全く異なる思想的文脈で受け継がれてきました。
神道において榊は、神が宿る「依代(よりしろ)」または神域と人間界を分かつ「境の木(境木)」が語源とされています。一年中枯れることのない艶やかな深緑の葉は「栄える木(栄木)」とも称され、神社本庁の祭儀規定でも玉串や神棚のお供えとして不可欠な神聖植物です。神前を清浄に保ち、生命力の象徴として神を祀るために捧げられます。
一方、仏教における樒は、密教(天台宗・真言宗)や日蓮宗系(日蓮正宗・創価学会など)で特に重用されてきた歴史を持ちます。樒の葉や樹皮は古くから乾燥させて粉末にし、仏前に捧げる「抹香(まっこう)」や「お線香」の主原料として用いられてきました。樒の花の形状が仏教の聖花である「青蓮華(しょうれんげ)」に似ていること、また独特の強い芳香が邪気を払い場を清めると信じられたことがその理由です。
さらに民俗学的な実用面として、土葬が主流だった時代、強い芳香と後述する猛毒を持つ樒を遺体の枕元や墓所に敷き詰めることで、野犬や狼、害虫による遺体の掘り起こしを防ぐ防獣・防腐・防臭効果を発揮させていたという歴史的事実が存在します。