永観堂を語る上で欠かせないもう一つの至宝が、阿弥陀堂に安置されている重要文化財「みかえり阿弥陀(木造阿弥陀如来立像)」です。全高約77センチメートルと小ぶりながら、左肩越しに斜め後方を静かに振り返るその姿は、全国的にも極めて珍しい仏像彫刻として知られています。
寺伝によると、永保2年(1082年)2月15日の早朝、当時50歳であった第7世・永観(ようかん)律師が、阿弥陀像の周囲を行道(念仏を唱えながら歩く修行)していた際、突如として阿弥陀如来が須弥壇から下り、永観の先頭に立って導き始めました。あまりの奇跡に足を止め、呆然と立ち尽くす永観に対し、阿弥陀如来が左肩越しに優しく振り返り、「永観、おそし」と声をかけられたと伝えられています。
この言葉と姿勢には、仏教社会学や宗教心理学の観点からも深い教訓が込められています。先を急ぐ者を称えるのではなく、歩みが遅い者、迷い立ち止まる者、社会の中で取り残された弱者を決して見捨てず、後ろを振り返って歩調を合わせる「絶対の慈悲」を可視化した姿にほかなりません。永観律師自身、境内に薬王院を設けて貧民の救済や医療活動に私財を投じた慈悲の人であり、その生き様がこの仏像の伝承と分かちがたく結びついています。