「ソースの二度づけは禁止やで!」——かつて新世界のカウンターで飛び交った威勢のいい大将の注意喚起は、2026年の現在、現場からほぼ消え去りつつあります。大阪串カツの象徴とされたステンレスの共有ソース缶に串を浸すスタイルは、近年の世界的な公衆衛生意識の高まりやインバウンド観光客の激増を契機に、決定的な転換を迎えました。
現在、大手チェーン店や新世界の主要店舗における約8割が、卓上に備え付けられた「ディスペンサー(押し出し式ボトル)」またはスプーンですくってかける方式を採用しています。厨房関係者への聞き取り取材によると、「共有缶の運用は衛生面での不安を訴える声が多く、インバウンドの旅行者にルールを徹底させるコストも限界に達していた。ボトル式への刷新は苦渋の決断だったが、食品ロス削減とオペレーション効率化の観点からも不可逆な流れ」だと証言します。
しかし、この変化によって「串全体に均一にソースをまとう、あの独特の食感が失われた」と嘆く古くからの常連客が少なくないのも事実です。一部のこだわりを持つ老舗では、注文ごとに小鉢でソースを個別に提供する「1人1皿方式」を導入し、伝統的な“どぶ漬け”の所作を保ち続ける工夫を凝らしています。キャベツを手でちぎってソースをすくい、揚げたての衣に垂らすという裏技も、今や衛生対策をクリアしながら伝統の味を楽しむ知恵として受け継がれています。