桐生の刺青を語る上で欠かせないのが、過去を描いた前日譚『龍が如く0 誓いの場所』で見せた「スジ彫り(筋彫り)」の状態です。墨の輪郭線のみが刻まれ、色が入っていないこの姿は、当時のファンに鮮烈な衝撃を与えました。
和彫りにおいて、筋彫りから色入れ(ボカシ)が完了するまでには数十時間から数百時間の施術と莫大な費用を要します。しかし作劇上の理由はそれだけではありません。当時の桐生一馬はまだ20歳。堂島組の末端構成員に過ぎず、自分自身が裏社会でどう生きるべきか、男としての確固たる覚悟が定まっていませんでした。あの未完成な筋彫りは、「まだ何者でもない青年の未熟さ」と「自らの手で未来に色を塗っていく途上の覚悟」を視覚的に表現した極めて巧みな演出でした。
また、応龍の上部、桐生の首の付け根あたりに刻まれている「梵字(サンスクリット文字)」にも重要な意味が存在します。この文字は「キリーク」と呼ばれ、仏教においては阿弥陀如来および千手観音菩薩を象徴する聖なる文字です。キリークは無限の慈悲と救済を意味し、あらゆる罪や苦難から衆生を救う守護の力を持ちます。裏社会の暴力に身を投じながらも、弱き者を決して見捨てず、身内や無関係な人々を守るために拳を振るう桐生一馬の「慈悲の精神」が、この小さな梵字一つに集約されているのです。