十二社熊野神社の境内には、歴史の生き証人とも言える貴重な文化財が凝縮されています。その代表格が、拝殿左手に鎮座する「なで牛(撫で牛)」です。
この牛の像は、享和3年(1803年)に寄進されたもので、新宿区指定有形民俗文化財に登録されています。台座には、江戸時代の高名な狂歌師・大田南畝(蜀山人)による銘文が刻まれており、当時の江戸町衆と文化人たちの厚い信仰を雄弁に伝えています。
古来、菅原道真公(天神様)の神使としても親しまれる牛ですが、この「なで牛」には独自の信仰が根付いています。自らの身体の不調な部位と同じ箇所を撫でると病気平癒や痛みの緩和にご利益があるとされ、頭部を撫でれば知恵を授かり学業成就・判断力向上につながると語り継がれてきました。現在も多くの参拝者が頭や背中を丁寧に撫でていくため、石肌の表面は黒く光沢を放つほど磨き上げられています。
さらに、境内奥には江戸時代後期の「水鉢」や、新宿の治水と芸能文化を偲ばせる「弁天社」も鎮座しています。かつて池に囲まれていた水郷の記憶を今に留める弁天社は、金運・芸術・勝負事への加護を求める参拝者にとって欠かせない祈願ポイントとなっています。