金子文子の思想と行動を理解する上で欠かせないのが、社会の底辺で虐げられ続けた幼少期の凄惨な体験だ。無籍者として極貧の生活を耐え抜いた彼女は、やがて国家や家父長制という巨大な権力機構の不合理に強い疑問を抱くようになる。上京後に運命的な出会いを果たしたのが、朝鮮出身の青年運動家・朴烈であった。
二人は強い魂で結ばれ、あらゆる抑圧を拒絶するアナキズムの思想へと傾倒していった。昭和天皇即位の儀式に際し、爆破計画を企てたという嫌疑で拘束された「大逆事件」において、彼らは法廷を自らの信念を表明する最大の舞台へと変貌させた。死刑判決を受けても一切動じることなく、権力の横暴と徹底的に対峙した二人の姿は、当時の社会に巨大な衝撃を与えたのだ。