本作最大の関心事といえば、主人公・斉木楠雄と「神に愛された完璧美少女」照橋心美の恋の行方です。周囲の男性を100%「おっふ(息を呑む感嘆の声)」させる美貌と計算された立ち振る舞いを持つ照橋ですが、唯一自分に靡かない楠雄に執着するうち、打算のない本物の恋情へと変わっていきました。
ファンの間で幾度となく議論されてきたのが、「原作の斉木楠雄に好きな人はいたのか」という疑問です。本編を通して楠雄が最も愛したのは疑いようもなく「コーヒーゼリー」でしたが、照橋心美に対する感情のグラデーションは、物語の進展とともに明らかな変遷を遂げています。
連載初期において、照橋は楠雄にとって「平穏を脅かす最も警戒すべき災難」に過ぎませんでした。テレパシーで腹黒い内心が筒抜けだったこともあり、楠雄は徹底的なエンカウント回避を試みます。しかし、他人の評価のために血のにじむような努力を怠らない照橋の真摯さや、ピンチの際に見せる気高さに触れるうち、楠雄の態度は「警戒」から「敬意」、そして「庇護欲」へと移ろっていきました。
決定打となったのは、原作第214χ(文化祭編のエピソード)です。倒れそうになる照橋をとっさに抱きとめた楠雄に対し、読者の注目が集まりました。さらに最終回直前の第278χにおいて、楠雄は照橋の過剰なアプローチに対して心の中で思わず「おっふ」と言いかけるような描写を見せます。超能力を失い普通の人間として生きようとした瞬間、楠雄の防壁が解け、照橋の圧倒的な魅力に心が揺らいだ瞬間でした。
原作最終回および完結編において、2人が正式に恋人同士になる場面は描かれません。しかし、世界を救うために再び超能力と向き合うことを決意した楠雄が、最後に照橋を見つめる眼差しには、もはや初期の嫌悪や冷淡さは微塵もありませんでした。「付き合ってはいないが、誰よりも特別な存在として認め合っている」――これこそが、原作者が用意した最も尊い結末だったのです。