おせち料理に栗きんとんが欠かせない最大の理由として、真っ先に挙げられるのが「金運の上昇」です。漢字で「金団」と表記されるこの料理は、文字通り「黄金の団子」や「金の布団」を意味し、小判や金塊、財宝そのものに見立てられてきました。新年の幕開けに黄金色の料理を口にすることで、その年一年の豊かな暮らしと商売繁盛を祈願する習俗は、都市部の町人文化が成熟した江戸中期以降に強固に定着したとされています。
しかし、食文化史の文献や武家故実を紐解くと、栗そのものが持っていた意味は「富」よりもむしろ「戦勝」に深く結びついていました。その根底にあるのが、古来重宝されてきた「勝ち栗(搗ち栗)」の縁起です。乾燥させた栗の実を臼でついて殻と渋皮を取り除く工程を「搗つ(かつ)」と呼んだことから、「勝つ」という言葉に通じる吉祥の食物として尊ばれました。
室町幕府の儀礼書や戦国期の記録によると、武田信玄や織田信長をはじめとする名だたる武将たちは、出陣の儀式である「三献の儀(打鮑、勝栗、昆布)」において、勝ち栗を重要な軍礼の肴として食していました。「敵に打ち勝ち、喜ぶ」という言祝ぎ(ことほぎ)は、武士にとって命を賭けた願掛けそのものだったのです。明治以降、おせち料理が近代的な重箱形式として一般家庭へ再編される過程で、町人の「蓄財・商売繁盛」への願いと、武家の「勝負運・出世祈願」の象徴性が融合し、栗きんとんは現代の万能な縁起物へと昇華していきました。