SNSや動画共有プラットフォームの発達により、「波賀森林鉄道」に関する情報が急速に拡散されるようになりました。しかし、そこには読者が誤解しやすい落とし穴や、安全上の深刻な盲点がいくつか潜んでいます。
最も多い誤解が、「廃止された森林鉄道の山岳路線全体が観光鉄道としてそのまま復活した」という錯覚です。ネット上で「波賀森林鉄道が復活! トロッコに乗れる」という見出しが躍るため、かつての渓谷沿い数十キロの廃線跡を観光列車が走っていると思い込んで現地を訪れる旅行者が後を絶ちません。前述の通り、動態保存されているのは保存拠点内に整備された限定的なレール区間であり、本線の廃線跡そのものは今も険しい山林の中に眠っています。
また、廃線跡探索に伴う「リアルなリスク」を軽視した軽装での入山トラブルも顕在化しています。宍粟市の山林は手付かずの大自然が残る一方、以下のような過酷な環境が存在します。
- 法面崩落と橋脚の劣化:昭和40年代の廃止から半世紀以上、人為的な補修が一切行われていない構造物ばかりです。特に赤西渓谷や音水の木橋跡やトンネルの坑口周辺は、いつ大規模な崩落が起きてもおかしくない危険な状態にあります。
- 山ヒルと野生動物の脅威:5月下旬から10月にかけての湿潤期には、吸血性の「山ヒル」が大量に発生します。また、ツキノワグマの生息地でもあり、鈴や撃退スプレーなどの装備を持たずに遺構撮影に没頭することは極めて危険です。
- 携帯電話の不通と遭難リスク:渓谷深部に入ると大手キャリアの電波はほぼ完全に圏外となります。道迷いや滑落骨折などの事故が発生した場合、迅速な救助要請を行うことは極めて困難です。
廃線跡巡礼の魅力は否定できませんが、「自然保護区および国有林のルール」を順守し、立ち入り禁止区域に絶対に足を踏み入れないというコンプライアンス意識が強く求められます。