失意のどん底から這い上がる過程で、ユカイ氏の人生を根本から救ったのが、2009年2月に再婚を果たした一般女性の「タンポポ(通称)」さんでした。出会いのきっかけは知人を介した食事会でしたが、彼女はユカイ氏を「往年の有名ロッカー」として特別扱いすることなく、一人の不器用な中年男性としてフラットに向き合ったといいます。飾らない人柄と、母のように深く温かい包容力に触れ、ユカイ氏は「この人と人生の再起を図りたい」と決意しました。
しかし、幸福な再婚生活の先に待っていたのは、現代の生殖医療における過酷な壁でした。子供を望んで受診した専門クリニックで、ユカイ氏は医師から「無精子症」という衝撃的な告知を受けます。男性としてのアイデンティティを根底から揺るがす診断結果に、一時は茫然自失となった彼を支え続けたのがタンポポさんでした。
2人は覚悟を決め、精巣内精子採取術(TESE)と顕微授精(ICSI)を伴う高度生殖医療への挑戦を開始します。男性側の精神的ダメージだけでなく、女性側にのしかかる排卵誘発剤の副作用や度重なる採卵の肉体的激痛――一般に高度不妊治療の成功率は年齢とともに漸減し、治療費も数十万から数百万円規模へと膨らみます。数々の失敗と絶望の淵を乗り越え、2010年2月に第1子となる長女(新菜・ニーナさん)が奇跡的に誕生。さらに2011年11月には、双子の男児(頼音・ライオンくん、匠音・ショーンくん)を授かるという、まさに生命のドラマを紡ぎ出しました。
ユカイ氏はこの壮絶な闘病記を著書『タドコロ』で実名告白し、タブー視されがちだった「男性不妊」の実態を世に広く知らしめるパイオニアとなったのです。