今や国民食となったカツカレーが、この銀座の地でいかにして産声を上げたのか。その歴史を語る上で欠かせないキーパーソンが、戦後プロ野球黄金期の読売巨人軍千葉茂氏です。昭和23年(1948年)、後楽園球場での試合を控えた千葉氏は、空腹を満たし試合に勝つためのスタミナをつけるべく、銀座スイスの厨房に向かってこう声を掛けました。
「おい、カレーライスに豚カツを乗っけて持ってきてくれ!」
当時の常識では、高級な洋食であるポークカツレツとスパイシーなカレーライスをワンプレートに合わせるなど前代未聞の暴挙でした。しかし、創業者の岡田進之助氏はこの型破りな注文を快諾。カラッと揚げたてのロースカツの上に、丹念に煮込んだルーを惜しみなくかけた一皿を提供したのです。これが瞬く間に球界やファンの間で噂となり、正式メニューとして登録されたのが、今も看板を飾る元祖カツカレー発祥の店としての原点でした。
現在でもメニュー表に堂々と掲げられている千葉さんのカツカレーは、当時のレシピ哲学を厳密に守り続けています。一般的な小麦粉を多用した重いルーとは異なり、たっぷりの炒め玉ねぎと香味野菜、すりおろしリンゴ、そして豚ひき肉をじっくりと煮込んで溶け込ませたルーが特徴です。一口目はフルーティーな甘みとコクが広がり、噛みしめるごとにスパイスの心地よい刺激と豚カツの旨味が重なり合います。決して奇をてらわない実直な味わいこそが、70余年の歳月を超えて舌の肥えた銀座の食通たちを唸らせ続ける理由です。