篆刻の現場を取材すると、熟練の印人たちが異口同音に語るのが「手元が定まらなければ、どれほど完璧な布字(文字の割り振り)を行っても意図した線は引けない」という冷厳な事実です。篆刻における「持ち手」というキーワードには、作業効率と表現力を決定づける2つの重要な側面が存在します。
第1の側面は、印刀の持ち方・握り方です。硬い天然石を相手にする篆刻では、一般的な筆記具のように指先だけで刀を保持しようとすると、石の抵抗に負けて刃が滑り、印面を傷つけるばかりか左手を負傷する事故につながります。刀の握り方は、石に適切な圧力をかけつつ、ミクロン単位の繊細な軌道をコントロールするための動力伝達システムそのものです。
第2の側面が、印材上部の持ち手部分である「印鈕(鈕飾)」のデザインと彫刻です。古代中国において印章の紛失を防ぐため紐を通す穴(鈕孔)を設けたことに由来する印鈕は、現代では鑑賞価値を高めるだけでなく、押印時に「天地(上下)」を指の感触で瞬時に識別し、均等に印圧をかけるための実用的なグリップとしても機能します。