情報空間でまことしやかに囁かれている説の中には、製パン科学の観点から見て明白な誤解が少なくありません。痛い目を見る前に知っておくべき2大盲点を指摘します。
誤解1:「どんな古い米や古古米でもパンにすれば美味しくなる」という幻想
「古くなってパサついた米の消費に最適」と紹介されることがありますが、これは半分正しく、半分は誤りです。極端に古くなった米はデンプンの保水力が低下しており、浸水させても十分な膨潤が得られません。また、古米臭(ヘキサナールなどの酸化臭)はパンを焼成しても消えず、むしろ加熱によって蒸気とともに強調されてしまいます。美味しい生米パンを焼くためには、できれば収穫後1年以内の標準的な精米を使用するのが鉄則です。
誤解2:「ベーキングパウダーで作るクイックブレッドと同じ手軽さである」
イーストを使わずに重曹やベーキングパウダーで膨らませる生米蒸しパンのレシピと、HBを使ってイースト発酵させる「食パン」が混同されがちです。化学反応で一瞬だけ気泡を作るクイックブレッドと、微生物(酵母)が時間をかけて炭酸ガスを生成し熟成させる食パンとでは、工程のシビアさが根本的に異なります。HBで山型の食パンを成立させるには、前述の温度管理とサイリウムの配合が不可欠であり、「ただ混ぜて流し込むだけ」という甘い認識は失敗に直結します。