指先に心臓があるかのようにドクドクと拍動する強い痛みが生じているなら、それは爪周囲炎の典型的な兆候です。英語で「Paronychia(パロニキア)」、一般には「爪囲炎(そういえん)」とも呼ばれるこの病態は、爪の付け根(爪根部)や両サイドの溝(側爪郭)に細菌や真菌が入り込み、急性の炎症を引き起こすことで発生します。
日本整形外科学会および形成外科学会の臨床知見によると、感染の起点となる主な原因菌は、人体の皮膚表面や鼻腔内に常に存在する黄色ブドウ球菌やレンサ球菌です。健常な皮膚は強固なバリア機能を保っていますが、日常のささいな傷口から菌が皮下組織へ侵入します。主な感染経路は以下の通りです。
- ささくれ(逆剥け)を無理に引っ張って引きちぎる行為
- 爪の角を深く切り落とす深爪や、巻き爪・陥入爪による皮膚の損傷
- 無意識に爪を噛む癖(咬爪癖)や指しゃぶりによる唾液中の雑菌侵入
- ジェルネイルのオフや甘皮(キューティクル)の過度な処理、マニキュア器具による小傷
- 長時間の水仕事や手洗い過多による手荒れ・乾燥亀裂
爪周囲炎の初期症状は、患部のわずかな赤みや軽度の圧痛、局所的な熱感から始まります。しかし、指先は「パルプ」と呼ばれる密閉された強靭な線維性組織で構成されており、神経終末が極めて高密度に張り巡らされています。そのため、組織の内部で炎症が起きて内圧が上がると、逃げ場を失った組織圧が神経を圧迫し、短時間のうちに激痛へと悪化する生理学的メカニズムが存在します。