なぜ、放送中の人気特撮番組でこれほど強引なテコ入れが行われたのか。その背景には、クリエイティブへの過剰なこだわりによる制作現場の崩壊と、深刻な商業的危機が存在していました。
前半(1〜29話)のチーフプロデューサーを務めていたのは、かつて『仮面ライダークウガ』を大成功に導いた名匠・高寺成紀プロデューサー(高寺P)でした。高寺Pは「平成ライダーのマンネリ打破」を掲げ、バイクに乗らない、変身ベルトを使わない、ライダー同士で戦わないという前代未聞のコンセプトを打ち出しました。
しかし、その妥協なき作家主義は制作現場に致命的な歪みを生じさせます。全編ロケ撮影へのこだわりや、巨大CG魔化魍のレンダリング作業はスケジュールを著しく圧迫。放送日直前まで納品が間に合わない「自転車操業」に陥り、東映の制作予算は放送前半の時点で年間枠を大幅にオーバーする異常事態となっていました。
決定打となったのは、メインスポンサーであるバンダイのトイホビー売上です。前作『仮面ライダー剣(ブレイド)』の通期売上80億円に対し、響鬼の玩具売上は約65億円へと落ち込みました。音撃棒や音撃ディスクといった和楽器・生物モチーフのアイテムは、従来の変身ベルトのような爆発的セールスを記録できず、主力商品の「変身音撃棒・音角」や「DX音撃棒セット」の店頭消化率は低迷を極めていました。
危機感を募らせた東映上層部とバンダイは、第29話をもって高寺Pおよびメイン脚本のきだつよし氏、大石真司氏らを更迭。急遽、後任として招聘されたのが、『仮面ライダーアギト』や『仮面ライダー555』をヒットに導いた白倉伸一郎プロデューサー(白倉P)と、メイン脚本の井上敏樹氏のタッグでした。
この交代劇は「降板騒動」として業界内に激震を走らせました。白倉Pと井上敏樹氏に課せられたミッションは極めて過酷でした。「赤字予算の緊縮」「破綻寸前の納品スケジュールの正常化」「玩具販促の立て直し」を、放送を1週たりとも落とすことなく完遂しなければならなかったのです。