松任谷由実が松田聖子に楽曲提供を行う際、クレジットされたのは「呉田軽穂(くれだ かるほ)」という謎めいたペンネームだった。大女優グレタ・ガルボに由来するこの名義には、由実自身の並々ならぬ戦略と美学が隠されていた。
自身のアーティストイメージと切り離し、純粋にメロディの力だけで勝負したいという意図があったからだ。過剰な前評判を排除し、歌い手である松田聖子の声質と表現力を最大限に引き立てるための「透明な隠れみの」。この企ては見事に成功し、リスナーは先入観なしに旋律の美しさと歌声の透明感に没入した。職人としての覚悟が、ポップ史に残る洗練されたメロディラインを生み出した瞬間である。