ネット掲示板やSNS上でたびたび話題に上るのが、「大物芸能人〇〇のケツ持ちは広域暴力団幹部」「芸能事務所の背後には闇のフィクサーが存在する」といった芸能界のケツ持ち疑惑です。
この噂の真偽を読み解くには、日本の芸能・興行史を客観的に俯瞰する必要があります。
昭和中期から後期にかけて、興行(芝居、歌謡ショー、サーカスなど)の保安や会場手配、地方巡業のトラブル回避において、地域を取り仕切る興行主やヤクザ組織が事実上の後見人として関与していた時期が存在したのは歴史的事実です。大手レコード大賞の利権やタレントの移籍トラブルを巡り、水面下で裏社会の重鎮が手打ちを行っていた実態は、当時の関係者手記や法廷証言でも数多く記録されています。
しかし、平成末期から令和、そして現在にかけて、芸能界を取り巻くコンプライアンス環境は不可逆的な変化を遂げました。
2011年に全国配備された暴排条例を契機に、民放キー局や大手広告代理店、映画会社は「反社会的勢力との関係遮断に関する基本方針」を厳格化。タレント個人や芸能事務所の役員に至るまで、警察当局のデータベースと照合する身元確認(暴排チェック)が義務付けられました。仮に裏社会の後見人の存在が発覚すれば、CMの即時降板、出演番組の打ち切り、数億円単位の損害賠償請求が発生し、事務所そのものが経営破綻に追い込まれます。
したがって、現在メジャーなメディアで活動する大手プロや一流タレントに関する「現役のケツ持ち説」のほとんどは、過去の因習を面白おかしく増幅させた根拠なき都市伝説にすぎません。
一方で、近年のリスクは別の場所に移動しています。既存の大手メディアを通さずに活動する地下アイドル、無認可のライバー事務所、悪質なインフルエンサープロデューサーなどの周辺において、反社的な人物が「プロデューサー」「出資者」という隠れ蓑をまとって事実上のケツ持ちとして暗躍し、未成年タレントの搾取で警察に摘発される事件が散発しています。公の目が行き届かないグレーゾーンにおけるリスクは、むしろ警戒が必要です。