なぜ、一地方局の幹部がこれほど長期間にわたり、誰にも咎められることなく凶行を重ねることができたのでしょうか。組織心理学および企業ガバナンスの視点から分析すると、そこには日本の伝統的な地方組織特有の病理が明確に浮かび上がります。
心理学には、不正行為が発生する構造を説明する「不正のトライアングル」という理論があります。これは以下の3つの要素が揃った時に人は不正を働くというものです。
- 動機・プレッシャー:ギャンブル依存や私的な借金、生活苦など。
- 機会:「誰にもバレずに実行できる」管理の甘さや単独の権限。
- 正当化:「あとで返せばいい」「誰も困らない」「会社のために尽くしてきた」という都合の良い言い訳。
田村元局長の場合、ギャンブルによる資金繰りの破綻という強い「動機」があり、長年同じ部署に君臨して金庫を独占管理できるという絶対的な「機会」が存在していました。さらに恐ろしいのは組織側の心理です。地方のメディア企業は人間関係が濃密で流動性が低く、上層部やベテラン社員に対して「あの人が横領などするはずがない」という根拠なき「内向きの性善説」と心理的盲点が形成されがちです。
「チャリティ活動をしている清廉な自分たち」という組織的な自己肯定感の陰で、泥臭いチェック機構や相互牽制(ダブルチェック)の導入が「仲間を疑うような不粋な行為」として忌避されていた節さえあります。信頼とは、厳格なルールと透明な監視システムがあって初めて成立するものです。「人を信じて仕組みを信じず」という監査の鉄則を怠った結果が、10年に及ぶ背任の土壌を生み出したと言えます。