『殺戮にいたる病』の構成は、極めて特異です。物語はエピローグ的な「蒲生稔の逮捕現場」から幕を開けます。すでに犯人の名が割れている状態から、過去に遡って凄惨な連続殺人事件の推移が記録されていくため、読者は「犯人探しのミステリ」ではなく「犯行の動機と逮捕までのプロセスを追うサスペンス」として読み進めることになります。
物語を牽引するのは、以下の3つの視点です。
- 蒲生稔(がもう みのる):「永遠の愛」を求め、女性を惨殺してはその遺体を損壊・凌辱する連続殺人鬼。
- 蒲生雅子(がもう まさこ):自室に籠もりがちな「息子」の異常行動に気づき、彼が連続殺人犯ではないかと疑い苦悩する母親。
- 樋口(ひぐち):過去に起きた事件で愛娘を失い、復讐のために独自に犯人を追い続ける元刑事。
読者の頭の中には、自然と「雅子=母」「稔=猟奇殺人に手を染める若い息子」「樋口=犯人を追う探偵役」という相関図が構築されます。雅子は息子の部屋から見つかる血痕や不審なゴミに怯え、母性ゆえに証拠を隠蔽しようと葛藤します。この心理描写があまりに真に迫っているため、読者は提示された相関図に一片の疑いも抱かずにページをめくり続けることになります。