伝説となった最終回の裏側には、原作者である梶原一騎(高森朝雄名義)と、作画を担当したちばてつやの壮絶な作家性のぶつかり合いが存在していました。出版関係者の証言やちばてつや公式インタビューの記録によると、当初、梶原一騎が講談社に提出した最終回の原作ネーム(脚本)は、現在世に知られているラストシーンとは全く異なるものでした。
梶原一騎結末の解釈における初期プロットでは、ホセ・メンドーサとの壮絶な闘いを終えたジョーは、白木葉子の差し伸べた手を取り、傷つきながらもリングを降りて静かな余生や新たな人生へ歩み出すという、人間的な救済を含んだエンディングが提示されていました。劇画作家としてドラマチックなカタルシスを重んじる梶原にとって、ジョーという孤児が愛を知り、平穏を取り戻すことは一つの必然的な終着点だったのです。
しかし、このネームを受け取ったちばてつやは激しい葛藤に直面します。連載開始から数年間、ジョーの息遣いや痛みを誰よりも身近で描き続けてきた画家としての直感が、「力石徹を死なせ、カーロス・リベラを廃人に追い込み、自らもボクシングに魂を売り渡したジョーが、普通の青年のように日常へ帰還することはできない」と強烈に拒絶したのです。
ちばてつやは数日間にわたり締め切りを引き延ばし、自室に籠城して苦悩した末、かつて作中でジョーが紀子に対して語った「ほんの瞬間にせよ、まぶしいほどにまっ赤に燃えあがるんだ…そしてあとにはまっ白な灰だけが残る…」という独白をフラッシュバックさせ、リング上で灰となって微笑むあの構図を独断で描き上げました。梶原一騎は完成原稿を目にした際、その圧倒的な画力と説得力に息を呑み、異論を挟むことなくこの結末を受け入れたと伝えられています。