二人の夫婦関係を決定的に破壊したのは、外部から入り込んだ親族の悪意でした。チエミさんの実母が戦前に残した連れ子であり、チエミさんにとって異父姉にあたる女性Yが高倉夫妻の生活に入り込んできたのです。チエミさんは幼少期に生き別れていた姉を不憫に思い、家政婦兼身の回りのマネージャーとして身近に招き入れました。しかし、この親族への情愛が最大の破滅を招くことになります。
異父姉はチエミさんの実印や銀行印、権利証を巧みに持ち出し、高利貸しや知人から巨額の資金を借り入れました。さらにチエミさんの名義を勝手に使用して不動産を担保に入れ、総額で当時の金額にして数億円(現在の貨幣価値で数十億円相当)にのぼる莫大な借金をつくって失踪したのです。異父姉の凶行は金銭横領にとどまらず、夫婦仲を意図的に引き裂く悪質な離間工作にまで及んでいました。
姉は高倉さんに対して「チエミがあなたの悪口を言っている」と吹き込み、チエミさんには「健さんが浮気をしている」と虚偽の告げ口を繰り返して家庭内を疑心暗鬼に陥れました。事件が表面化した1971年、チエミさんは「これ以上、健さんの名前と役者人生に泥を塗るわけにはいかない」「法的な連帯保証の追及から夫を守らなければならない」と覚悟を決め、一人で全額を返済するために自ら離婚を申し出ました。高倉さんは離婚に強く反対したものの、チエミさんの決意は揺るぎませんでした。