東日本大震災や阪神・淡路大震災など、大規模な災害の前後には決まって海生哺乳類の異常行動が話題に上ってきた。特にクジラやイルカが波打ち際に押し寄せられる現象は、「地震前兆説」の筆頭として語られがちだ。だが、統計学的なアプローチはこの直感を真っ向から否定する。
東海大学特任教授の長尾年恭氏をはじめとする研究チームや、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の知見を交えた過去数十年分のビッグデータ解析によれば、海生哺乳類の座礁とマグニチュード6.0以上の巨大地震との間に、有意な相関関係は認められていない。日本全国の海岸で記録されたクジラ漂着(集団座礁)事例と地震発生日を照合したところ、統計的な「偶然」の域を出ないことが判明している。
国立科学博物館に保管されている膨大な漂着記録を精査しても、地震発生の数日前から直前にかけて集団座礁が増加するという傾向は見られない。多くの人々が「クジラが打ち上げられた後に地震が起きた」と記憶するのは、無数の日常的な座礁ニュースを忘れ、たまたま時期が近かった強い揺れだけを記憶に深く刻み込む認知の偏り、いわゆる確証バイアスによる影響が大きい。