耳の入口付近に巨大な耳垢を見つけたとき、多くの保護者がやりがちな行動が「綿棒でかき出そうとする」「家庭用のピンセットでつまみ出そうとする」ことです。しかし、耳鼻咽喉科の臨床現場において、この家庭内処置こそが最も警戒すべきリスクとして挙げられています。
綿棒の先端は外耳道の直径に対して太すぎるため、耳垢を掻き出すどころか、ピストンのように耳垢を奥の「骨部外耳道(鼓膜に近い骨の領域)」へと押し込んでしまう結果になりがちです。これが綿棒で押し込む危険性の典型例であり、押し込まれた耳垢が圧縮されて硬い石のようになり、鼓膜を完全に遮蔽する耳垢塞栓(じこうそくせん)を引き起こします。
さらに危険なのが、ネット通販などで手に入るライト付きピンセットなどを用いた家庭内処置です。子どもの外耳道はS字状に湾曲しており、皮膚の厚さはわずか数百マイクロメートルしかありません。ピンセットによる耳垢除去の危険は極めて深刻で、子どもが処置中に不意に動いた瞬間、外耳道を鋭利な先端で傷つけて大出血を引き起こしたり、最悪の場合は鼓膜を穿孔(破裂)させて難聴や内耳障害を招いたりする事故が毎年のように報告されています。
家庭で「耳垢の塊が取れない」と感じた時点で、すでに耳垢は自力で触れてはならない危険領域に達しています。無理に引っ張ったり掻き回したりすることは、子どもに耳掃除に対する強い恐怖心を植え付け、その後の診療を困難にする最大の原因となります。