なぜこの店がこれほどまでに独特の空気を放っているのか。その答えは、那覇市辻のステーキ老舗としての歩みと、米軍統治下における沖縄の歴史そのものに刻まれています。
創業はサンフランシスコ平和条約発効直後の1953年。当時、米軍基地のゲート周辺で米兵向けに開かれた飲食店がルーツです。店内に入ると、壁一面に貼られた有名人のサイン色紙とともに、英語表記の古い木製看板やメニュー札が目に入ります。これらは演出で作られたものではなく、歴史の風雪を耐え抜いてきた本物の遺産です。
特筆すべきは、沖縄Aサイン建築と歴史の証人としての側面です。「Aサイン(Approved Sign)」とは、米軍が軍人・軍属に対して立ち入りを許可した民間飲食店に交付した営業許可証のことでした。衛生面、建物の構造、設備の清潔さなど、アメリカ軍の課す極めて厳しい基準をクリアした店舗にのみ、青地に白文字の「A」のエンブレムが掲げられました。
ジャッキーステーキハウスは、このAサインを誇り高く掲出していた名門店です。終戦後の物資不足と混乱の中、本土とは異なる食文化を形成していった沖縄において、ステーキは「特別なハレの日のご馳走」であり、同時に米軍統治下という過酷な現実の中で人々が生き抜くための活力源でもありました。店内に漂うどこか素朴で無機質なボックスシート、ダイナー風の調度品は、激動の昭和とアメリカ統治期をいまに伝える生きた文化財と言えます。