華々しいメダル獲得の裏側で、坂本選手の日常生活は息をつく暇もない過酷なものでした。関係者の証言から浮かび上がる坂本花織の学生生活エピソードは、まさに超人的なタフネスに満ちています。
通常の大学生活であれば、朝夕の練習の合間に講義を受け、友人たちとキャンパス内のカフェで談笑する時間もあるはずです。しかし彼女の場合、早朝からの氷上練習を終えて大学へ向かい、講義が終わればすぐにリンクへ戻って夜遅くまで滑り込む日々が日常でした。特に2年生以降は世界的なパンデミックに見舞われ、大学の講義形態が大きく変革。この変化を、彼女は持ち前のポジティブさで味方につけました。
海外遠征先での隔離期間やフライトの合間、ホテルの部屋にノートパソコンを持ち込み、時差を計算しながら大学のオンデマンド講義を受講。遠征の荷物には常に教科書や専門書が詰め込まれ、大会本番のプレッシャーに晒されながら期末レポートの執筆に追われる日々でした。当時のインタビューでも「試合前の公式練習が終わった後、部屋に戻ってパソコンを開き、必死に課題を提出した」と笑顔混じりに述懐しています。
そんな過酷な日々の集大成となったのが、卒業研究です。気になる坂本花織の卒論テーマは、彼女自身が身を置くフィギュアスケートの現場と、経営学部で培った専門知識を融合させた内容でした。
彼女が取り組んだ研究は、「日本のフィギュアスケート界におけるファン層の動向と競技の持続的な普及・マネジメント手法」に焦点を当てたものでした。一般の大学生のように机上の空論で語るのではなく、自らが競技の第一線で肌身に感じてきた「アイスショーの集客構造」「若年層スケーターの育成環境」「メディア露出とスポンサーシップの関係」を、経営学的なデータ分析と突き合わせて論述したのです。
指導を担当した教員からも「当事者ならではの鋭い課題意識と、経営学のフレームワークに基づいた論理展開が両立された素晴らしい論文」と高く評価されました。リンクの上で見せるダイナミックなスケーティングと同様、彼女の知性は現場の実体験と学術的な視点を結びつけることで、独自の輝きを放っていたことがわかります。