節足動物にとって、外骨格は身を守る無敵の装甲であると同時に、自らの成長を制限する「呪縛の檻」でもあります。骨が体の内側にある脊椎動物とは異なり、外骨格そのものは一度硬化すると伸び縮みしません。そのため、体が大きくなるたびに古い殻を脱ぎ捨てる「脱皮(だっぴ)」が絶対に必要となります。
脱皮のメカニズムは非常に精密です。成長ホルモン(エクジソン)の分泌によって古い外骨格の内側に新しい柔らかい皮膚が形成され、古い殻を背中などから裂いて脱ぎ出します。脱出した直後の生体は、空気や水を一気に吸い込んで体を大きく膨らませ、その状態で新しい殻を硬化させます。
しかし、この脱皮は個体にとって一生で最も危険な瞬間です。
脱皮直後の新しい外骨格はゼリーのように柔らかく、敵に襲われればひとたまりもありません。また、手足を殻から引き抜く際に引っかかって命を落とす「脱皮不全」のリスクも常に伴います。生物学の研究データによれば、飼育下および野生下における節足動物の死亡原因の多くが脱皮前後に集中しています。
それでも外骨格を捨てなかったのは、外骨格がもたらす「乾燥からの防御」「圧倒的な筋効率」「超小型化への耐性」というメリットが、脱皮のリスクを遥かに上回っていたからです。