ネット上の考察ブログやSNSでは、原作小説とドラマ版の相違点についてしばしば誤解が見られます。最も本質的な違いは、三浦友和演じる元警察官・高野茂の存在と、事件の解釈の深さにあります。
湊かなえの原作小説では、登場人物たちのモノローグ(独白)形式によって事件の真相が多角的に暴かれていきますが、ドラマ版では元警察官の高野茂という狂言回しを配置。妻・夏恵(原日出子)が放火事件のショックで失語症に陥ったというオリジナル設定を加え、高野が10年越しで若者たちの沈黙の裏にある「愛」を解明していく重厚なミステリーへと昇華させました。
また、ネット上で散見される「誰が本当の犯人だったのか」という議論において、「西崎が衝動的に野口を殴打した」「希美が指示を出した」といった誤った言説が存在します。しかし、事件の本質は計画的な殺人ではなく、突発的な家庭内暴力と、それを取り巻く極限状態の心理が引き起こした事故的連鎖です。西崎は奈央子を救おうとしただけであり、実際に野口貴弘を燭台で殴打したのは妻の奈央子でした。西崎は奈央子の精神的崩壊を防ぐため、自ら進んで罪を被り服役したのです。
ドラマ版が原作から最も美しく踏み込んだのが、最終話における希美の選択です。余命宣告を受けた希美が最後に選んだのは、何も知らずに前を向いて生きる安藤ではなく、同じ罪の記憶を抱え、ただ静かに寄り添ってくれる成瀬の待つ島でした。原作のドライなサスペンス性を尊重しつつも、テレビドラマとして至高の叙情詩へと着地させた演出力こそ、本作が不朽の名作と称される所以です。