かつては路地裏やビーチから無尽蔵に天才が湧き出ると言われたブラジルで、一体何が変化してしまったのでしょうか。ファンコミュニティやソーシャルメディア上では、ブラジルサッカー弱体化に対するネットの反応として、「ネイマール以降、真のゲームチェンジャーがいない」「ヨーロッパにかぶれて泥臭さが消えた」「メンタルが脆すぎる」といった手厳しい声が渦巻いています。
しかし、取材の現場で見えてくる本質は、単なるタレント不足ではありません。最大の要因は、「育成環境の標準化」と「欧州移籍の低年齢化」にあります。
昭和・平成の時代、ブラジルの強さの源泉は「ファベーラ(スラム街)のストリートサッカー」にありました。不揃いな地面、狭い路地で生き残るために磨かれた野生の閃きと、フットサル仕込みの足裏トラップや変則的なドリブル。これらがブラジル人固有の「ジンガ(身のこなし)」を育んでいました。しかし現在、才能ある少年たちは10歳にも満たない段階で整備されたエリートアカデミーに囲い込まれ、10代半ばでヨーロッパのビッグクラブへ引き抜かれます。
その結果、戦術理解力が高く守備をサボらない「規格化された優秀なウインガー」は量産されるようになったものの、かつてのロナウドやロナウジーニョのように、たった一人で守備ブロックを粉砕する異能の怪物は姿を消しました。欧州流のポジショナルプレーを体得した選手たちが代表に集まっても、代表チームとしての戦術的練度で欧州列強を上回ることは難しく、自慢の個人技でも欧州の緻密なコレクティブ守備に封じ込められるという、二重の袋小路に迷い込んでいるのです。