そもそも、なぜイギリスの時間軸は定期的に変動するのでしょうか。その背景には、近代天文学の歴史と、省エネルギーおよび日照時間の有効活用を目的とした国家的な制度設計が存在します。
原点となるのが、ロンドン郊外の旧グリニッジ天文台を通る子午線を基準としたグリニッジ標準時GMT(Greenwich Mean Time)です。GMTは長年、世界の基準時刻として機能してきました(現在は高精度な原子時計に基づく協定世界時「UTC」が国際標準となっていますが、実務上GMTとUTCの差はほぼゼロです)。冬の間、イギリスはこのGMT(UTC+0)を採用しているため、日本の標準時(JST:UTC+9)との差は文字通りそのまま「9時間」になります。
対して、日照時間が極端に長くなる夏季に導入されるのが英国夏時間BST(British Summer Time)です。時計の針を人工的に1時間進める(UTC+1)ことで、人々の活動時間を明るい夕方にシフトさせ、照明用の電力消費を抑えるとともに余暇活動を活性化させる狙いがあります。イギリスが1時間進む結果、日本(UTC+9)とのギャップが1時間縮まり、「8時間」の時差へと変化する仕組みです。
イギリスでは第一次世界大戦中の1916年、戦時体制下の資源節約法として「夏時間法」が制定されて以来、1世紀以上にわたってこの二重構造が維持されています。冬場は朝8時を過ぎても薄暗く、夏場は夜22時頃まで薄明かりが残るという高緯度地域ならではの地理的条件が、この制度を存続させてきた大きな根拠となっています。