映画や原作を観た多くの人が最も打ちのめされるのが、松子の最期です。かつて誰もが羨む美貌を誇った元教師は、体重は肥大化し、異臭を放ち、近隣住民から「バケモノ」「嫌われ松子」と唾棄される存在へと変わり果てていました。
部屋の壁一面にアイドルグループ「光GENJI」の内海光司へのファンレターを書き殴るだけの日々を送っていた松子に、突如として奇跡のような転機が訪れます。刑務所時代の唯一の親友であり、実業家として成功していた沢村めぐみと偶然再会したのです。めぐみから「うちのサロンの美容師としてもう一度働いてほしい」と名刺を渡された松子は、恐怖と劣等感からその場を逃げ出すものの、部屋に戻り、夜空の星を見上げた瞬間に心の奥底で止まっていた時計が動き出します。
「もう一度、やり直せるかもしれない」
松子はハサミを手に取り、ボサボサに伸びきった自らの髪を切り落とします。そして、昼間に河川敷で投げ捨てていためぐみの名刺を探すため、深夜の荒川河川敷へと向かいました。草むらをかき分け、ついに名刺を見つけ出したその瞬間――彼女の背後から迫った影が、容赦なくその頭部を打ち砕きました。
松子の直接の死因は、頭部打撲による脳挫傷です。そして凶器は金属バット。犯人は、松子に恨みを持つヤクザでも過去の因縁の相手でもなく、夜の公園にたむろしていた顔も名前も知らない中学生グループ(少年たち)でした。
少年たちは、ゴミを拾いに来た奇妙な中年女性を「バケモノを退治してやる」という幼稚かつ残虐なゲーム感覚で襲撃したに過ぎませんでした。松子が人生を立て直そうと希望の光を掴んだまさにその夜に、動機すらない無作為な悪意によって生命を絶たれる。この残酷すぎる結末こそが、山田宗樹が作品に込めた「人生というものの予測不可能な不条理」を強烈に物語っています。