国内でマグロの群泳展示を行っている東京都葛西臨海水族園をはじめ、大型水槽を持つ現場では、マグロ特有の生理生態が飼育上の最大の壁となります。水族館のマグロが泳ぎ続ける理由は、単に見栄えのためではなく、水槽内であっても1秒たりとも足を止めることが許されない命の制約があるからです。
飼育現場の手記や技術報告によると、マグロの飼育において最も恐ろしいのは「ガラス面への衝突事故」です。マグロは直角に曲がることができず、後退(バック)もできません。水流の淀みや四角い水槽のコーナーに差し掛かると、前進速度を保てずに失速し、パニックを起こして水槽壁面に超高速で激突してしまう事例が後を絶ちませんでした。
この課題を克服するため、現代のマグロ水槽は完全な円形またはドーナツ型(環状構造)で設計されています。人工的に一定方向の緩やかな円周水流を作り出すことで、マグロが常に一定のラムベンチレーションを維持しながら周回できるように環境が整えられています。深夜帯の消灯時にも急激な暗転を避け、月光を模した微弱な照明を残すなど、視覚を完全に失ってパニック静止を起こさないための緻密なコントロールが施されています。