人間の脳において、論理的思考や感情のブレーキを司っているのが大脳の前頭葉(前頭前野)です。脳の機能は加齢とともに徐々に変化しますが、記憶を司る海馬や運動機能を司る部位に先駆けて、前頭葉の萎縮は40代から50代以降急速に進むことが医学的に明らかになっています。
前頭葉の抑制機能が低下すると、生じた怒りや不快感を理性で抑え込むことが難しくなります。若年期であれば「ここで怒っても損をするだけだ」と踏みとどまれる場面でも、感情の抑制が利かずに直接的な怒声や行動として表出してしまいます。このように感情の抑制が外れ、些細な刺激で激しい怒りや涙が溢れ出る状態は感情失禁(かんじょうしっきん)と呼ばれます。
脳機能の低下に加えて、高齢期特有の心理的要因が拍車をかけます。
- 社会的役割の喪失:定年退職によって肩書や承認欲求を満たす場を失い、社会から取り残されたような疎外感を抱く。
- 心身の衰えに対する不安:視力・聴力の低下、身体の痛み、新しいデジタル機器への不適応などによる慢性的なストレスと焦燥感。
- 「プライド」と「劣等感」の葛藤:「過去の経験や地位を尊重されたい」という思いと、「思い通りに体が動かない」という現実のギャップに対する防衛本能。