「血液検査一本で、あらゆるがんが初期で見つかるのではないか」という期待は、受診者の間で根強く存在します。近年、人間ドックのオプションとして定着した腫瘍マーカー検査や、血液中のマイクロRNA・循環腫瘍DNAを解析する最新のリキッドバイオプシー技術は、確かにがん検診の地平を広げつつあります。
しかし、医療現場の冷徹な事実として知っておくべきは、一般的な腫瘍マーカー(CEA、CA19-9、AFPなど)の多くは「早期がんを見つけるスクリーニング装置としては万能ではない」という点です。腫瘍マーカーとは、がん細胞が増殖する過程で産生される特殊なタンパク質や酵素を測るものですが、早期がんの段階では血中に漏れ出す量がごくわずかであり、陰性(正常値)と判定される「偽陰性」が頻発します。逆に、良性のポリープや慢性肝炎、さらには喫煙などの生活習慣によって数値が跳ね上がる「偽陽性」も後を絶ちません。
唯一の例外としてスクリーニングにおける有用性が確立されているのが、前立腺がんに特異的な「PSA検査」です。50歳以上の男性においてPSA検査は早期発見に多大な威力を発揮します。一方で、肺がん、胃がん、大腸がんなどの固形がんに関しては、腫瘍マーカーの数値だけで安全宣言を出すことは医学的に不可能です。体重の急激な減少、持続する微熱、原因不明の進行性貧血といったがんの初期症状と血液検査の数値変動を突き合わせつつ、最終的には内視鏡検査やCT・MRIなどの画像診断を組み合わせて初めて確固たる診断に辿り着きます。