港区三田三・四丁目地区の大規模再開発事業が進むなか、蟻鱒鳶ルは現在、曳家作業を終えた新たな基礎の上で着実に命を吹き込まれ続けています。周囲が巨大なオフィスビルや商業施設へと変貌を遂げるなか、手作業による彫刻のようなコンクリートのテクスチャーは、都市の景観において圧倒的な存在感を放っています。
当初、再開発組合の計画路線上に位置していた蟻鱒鳶ルは、権利変換や立ち退きによる取り壊しが確実視されていました。しかし、岡啓輔氏が長年注いできた情熱と建築自体の芸術的・文化的な価値が、多くの建築関係者や市民、さらには再開発事業者や行政の心を動かしました。度重なる対話と調整の末、敷地内で東側へ曳家を行い、建物を残したまま工事を再開するという極めて異例の合意が成立したのです。
現在の現場では、移動後の構造接合や地下・外構の補強、さらには上層部の造作作業が進められています。岡氏の手記やメディアの現場取材によると、日々の天候や自身の体調と対話しつつ、1立方メートルずつ丁寧にコンクリートを打ち継ぐ作業が日々繰り返されています。