耳の直下から下顎角(エラ)周辺にかけて生じるしこりは、その発生母地によって大きく「リンパ節系」「唾液腺系」「皮膚・皮下組織系」の3系統に分類されます。耳周辺には全身から集まるリンパ網が集中しているほか、唾液を分泌する最大の組織である耳下腺が存在するため、多様な病的プロセスが腫脹として現れやすい構造になっています。
臨床現場において、医師が問診と触診で最初に着目するのが「疼痛(痛み)の有無」と「発症スピード」です。
まず、耳の下のしこりを押すと痛い、あるいは何もしなくてもズキズキと痛むケースでは、急性の炎症や感染症が疑われます。風邪や扁桃炎、虫歯などに反応して頸部リンパ節が腫脹するリンパ節炎や、皮膚開口部に角質が溜まる粉瘤(アテローム)が細菌感染を起こした化膿性粉瘤、さらにはウイルス・細菌感染による耳下腺炎などが代表格です。これらは数日から1週間程度で急速に腫れ上がり、赤みや熱感を伴う特徴があります。
一方、注意を要するのが耳の下のしこりに痛みがまったくないケースです。「痛くないから無害だろう」と軽視されがちですが、医学的には無痛性で徐々に増大するしこりこそ慎重な精査が求められます。代表例が多形腺腫やワルチン腫瘍をはじめとする耳下腺腫瘍であり、初期には痛みを伴わず、数カ月から数年かけてゆっくりと増大します。無痛であることは決して安全宣言ではなく、むしろ腫瘍性疾患を疑う重要な指標となります。