「マル暴刑事はヤクザとつるんで悪事を働いているのではないか」という黒い疑惑は、昭和の時代から週刊誌やネット掲示板で幾度となく囁かれてきました。映画『孤狼の血』や、北海道警察の実話を描いた『日本で一番悪い奴ら』のような世界が、現実に存在していたのかという疑問です。
この問題の根底にあるのは、裏社会の捜査に不可欠とされる情報提供者「エス(Spyの頭文字)」の存在です。暴力団の内部情報、銃器の隠し場所、抗争計画などを事前に察知するためには、現役の幹部や組員を協力者として抱き込む必要があります。捜査員は彼らと密会を重ね、時には小遣いや飲食を提供し、人間的な信頼関係を築き上げようとします。この過程で生じるのが、相手に弱みを握られたり、便宜供与を求められたりする「共依存の罠」です。
かつては「銃器1丁を差し出す代わりに、別の微罪を見逃す」といった違法な裏取引が行われ、後に重大な警察不祥事として社会を揺るがした実例も存在しました。心理学的に分析すれば、日常的に裏社会の論理と触れ合ううちに、社会規範と組織防衛の境界線(バウンダリー)が曖昧になり、自らもアウトローの掟に染まってしまう「深淵をのぞく者」の心理的罠に陥ってしまったケースといえます。
しかし、現代の警察組織においてそのような無法は一切通用しません。現在では情報協力者との接触には事前に管理官や課長の承認が必須であり、密会時の報告義務、接触ログの厳格な管理が徹底されています。少しでも私的な金銭授受や不適切な便宜供与が発覚すれば、容赦なく監察のメスが入り懲戒免職となるため、現在語られる「癒着」の多くは過去の遺物か、誇張されたネット上のイメージに過ぎません。