「近所には絵になるような美しい山も海もない」と嘆く生徒は多い。しかし、特別な景勝地へ行く必要などまったくない。スタジオジブリの名作映画『耳をすませば』を思い出してほしい。舞台となっているのは、どこにでもある多摩の丘陵地帯や団地、何の変哲もない坂道や階段だ。それでもあの風景が観客の心を激しく揺さぶるのは、徹底して「人間の視線のドラマ」が計算されているからに他ならない。
例えば、坂の下から見上げるローアングルは道がどこか遠くへ続いているような冒険心を掻き立て、高台から見下ろす俯瞰の視線は街全体の広がりと孤独感を同時に演出する。曲がりくねった小道、錆びたガードレール、夕暮れ時の細長い電柱の影。日常の風景をドラマチックに変える鍵は、視点の高さ(アイレベル)の変化にある。立ったまま漫然と見るのではなく、しゃがみ込んで地面すれすれから世界を見つめ直してみる。それだけで、平凡な通学路はあなたにしか描けない物語の舞台へと変貌する。