録音音源のジュークボックスと化している現代のスポーツスタジアムにおいて、ドジャースタジアムが唯一無二の生きた空間であり続ける最大の理由は、球団専属の名物オルガン奏者ディーター・ルール(Dieter Ruehle)氏の存在にあります。
ルール氏は、NHLロサンゼルス・キングスのオルガン奏者も兼任するアメリカ音響界の重鎮であり、試合中のあらゆるシチュエーションに合わせてリアルタイムで鍵盤を叩きます。典型的な「タ・タ・タタタ・タッ…チャージ!(Charge!)」という古典的なファンファーレだけでなく、最新のビルボードチャート、80年代のクラシックロック、さらには世界的なサブカルチャー楽曲まで即興で弾きこなすその引き出しの多さは驚異的です。
中継を注意深く聴いていると、相手投手が牽制球を投げた瞬間に映画『スター・ウォーズ』の「帝国のマーチ(ダース・ベイダーのテーマ)」を不穏に響かせたり、三振を奪った瞬間に任天堂の名作ゲーム『ゼルダの伝説』の謎解きファンファーレを差し込んだりと、ウィットに富んだ演奏が随所に散りばめられています。SNS上でも「今日のディーターの選曲センスが神がかっている」「テレビ中継のバックで流れるオルガンが気になって試合に集中できない」といったファンの投稿が日常茶飯事となっており、彼の指先が試合の流れそのものを演出していると言っても過言ではありません。